第44回日本肥満学会への参加
2023年11月25日、26日に仙台国際センターで
行われた第44回肥満学会に参加してきました。
はじめに:「肥満」と「肥満症」の違いについてご存知でしょうか?
「最近お腹周りに脂肪がついてきた」「体型がかわってきた」
お悩みのことは皆様それぞれおありかとお察しいたしますが、肥満と肥満症の違いについて、ご存知でしょうか?
「肥満」は太っている状態を指す言葉で、病気を意味するものではありません。
しかし、肥満に伴って合併症が有る場合、または合併症になるリスクが高い場合、
「肥満症」と診断され、医学的な減量治療の対象となります。
一方、健康診断などで指摘される「メタボリックシンドローム」は
肥満である、ないに関わらず、内臓脂肪の蓄積および血圧、血糖値、血清脂質値の
うち2つ以上が基準値から外れている場合に診断されます。
(図:日本肥満学会HPより引用)
なぜ、肥満症では、合併症が起こるのでしょうか?
肥満では、脂肪細胞の肥大化とおもに脂肪細胞数の増加が認められます。
では、なぜ脂肪細胞が増加すると様々な合併症が起こるのでしょうか?
その理由の一つに、脂肪細胞は単に余剰のエネルギーを蓄積する貯蔵器官ではなく
アディポサイトカインと呼ばれる生理活性物質を産生し、分泌する生体内で最大の
内分泌器官として作用していることが挙げられます。
肥満細胞は炎症性サイトカインという物質を分泌することで慢性炎症を引き起こし
この状態が高インスリン血症と関連して様々な合併症へとつながっていきます。
メタボリック症候群では、肥満、特に内臓脂肪蓄積型肥満が病態の上流にあり、
遺伝的背景(体質)に環境因子が加わり、危険因子が経時的に連鎖することで
動脈硬化性疾患を発症すると考えられています。
これをドミノ倒しの図にして表現したものが下記の「メタボリックドミノ」です。
(図:KOPASより引用)
第44回日本肥満学会について
今回の学会では、「肥満症とがん」、「肥満症の運動療法・食事療法・薬物療法」
「肥満関連腎症」「肥満症と婦人科疾患」「肥満症と整形外科疾患」などの講演、
また、産業医としての肥満症の講習も受講してきました。
肥満では、生活習慣病などの疾患が注目されますが、慢性炎症を介して、大腸がんの
発症が増えるといわれています。また、肥満関連腎症という腎臓病や、
月経異常、変形性関節症、睡眠時無呼吸症候群などの多岐にわたる病気の原因になります。
肥満症治療の基本は食事療法・運動療法ですが、外科的手術の進歩や
薬物療法については30年ぶりに肥満症の新薬「ウゴービ®(一般名:セマグルチド)」
が発売されることもあり、ますます期待される分野かと思います。
一方、近年の美容・ダイエットを目的としたGLP1受容体作動薬の需要増加により、
糖尿病治療で使用されているGLP1受容体作動薬が在庫ひっ迫となっています。
私も糖尿病診療において処方に困ることもあり、肥満症治療についても
適切な対応が望まれるところです。
また、治療の進歩は素晴らしいことですが、
肥満は自己責任、自己管理ができていないなどといった
肥満に対する社会的偏見が生じないようにする必要があります。
これらの偏見は、「特定の属性に対して刻まれる負の烙印=スティグマ」
(社会的偏見による差別、差別されるのではないかという恐怖)
と言われ、学会がスティグマをなくすためのアドボカシー活動を提唱しています。
さいごに
コロナ禍のため、これまでWEBでの学会参加が続いていたのですが、
今回は久しぶりに現地で参加することができ、刺激をうけて参りました。
仙台は小雪が舞い散る時間帯もありましたが、会場は私が通学していた
高校の近くでしたので、寒さも大変懐かしかったです。
患者様の今後の生活・人生が豊かになるように、学会を通して学んだことを
日々の診療に活かしていきたいと思います。